2022年4月からHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の積極勧奨が再開しました。
突然、自治体から接種案内が届いて驚いている方もいるかもしれません。
何のこと?と思った方はぜひ漫画 コウノドリ 13巻14巻を読んでいただきたいと思いますが、今回は子宮頸がんの一経験者として、HPVワクチンについて考えていることをお伝えしたいと思います。
子宮頸がんはワクチンで防ぐことができる数少ないがんの一つです。
なので、定期接種の対象の方(小学6年生から高校1年生の女の子)は積極的に受けて欲しいと考えています。
HPVワクチンは過去副反応が問題なったこともあり、接種自体に迷っている方もいるかもしれません。
そういう方にあえてお伝えしたいことは次の通りです。
1年に1回の検診で、多くの場合命を守ることは可能
でも、将来妊娠・出産したいと考えているのであれば、子宮を守るためにHPVワクチンは接種すべきです。
HPVワクチンについてあまりよく知らない方、接種を迷っている方にとって、接種を前向きに考えるきっかけになれば嬉しいです。
今回の記事はこんな方におすすめです。
- HPVワクチン接種対象の小学6年から高校1年生の女の子
- HPVワクチン接種対象の子を持つご家族の方
- HPVワクチンが必要なのかよくわからない方
子宮頸がんの治療法
子宮頸がんは20代後半から患者が増え、40代がピークとなる若い女性に多いがんです。
そのため、治療が将来の妊娠・出産にどう影響するかは大きな問題です。
子宮頸がんの治療は手術、放射線治療、化学療法(抗がん剤)のどれか、もしくはいくつかを組み合わせて行われます。
子宮は赤ちゃんを育てるための大事な場所。
その入り口にがんができると、どの治療法を選択しても子宮に影響があります。
子宮に影響があると、多くの場合将来の妊娠・出産にも影響します。
私がHPVワクチンを進める大きな理由は子宮頸がんの治療方法にあります。
ステージごとの標準治療
がんのステージはよく耳にする言葉かもしれません。
ステージIなら初期、ステージ4なら末期
そんなイメージを持たれているかもしれません。
子宮頸がんもがんの広がり具合によって各ステージに分類され、それぞれ治療法は異なってきます。
前がん状態やⅠA1期であれば子宮の入り口を円錐状に切り取る円錐切除が一般的です。
もう少し状態が進んだⅠA2期からⅡB期までは子宮だけ、もしくは子宮の周りの組織も一緒に切除する手術を行います。さらに再発リスクによっては、放射線治療や抗がん剤治療が追加される場合があります。
ステージⅢ以降は基本的に手術は選択されず、放射線と抗がん剤の同時治療か、放射線・抗がん剤の単独の治療となります。
妊娠の可能性を残せる治療法
それでは、それぞれの治療が妊娠・出産にどのような影響を与えるのでしょうか。
当然、手術で子宮を摘出してしまえば妊娠はできません。
また放射線治療も放射線により卵巣や子宮がダメージを受けるため、妊娠はできなくなります。
抗がん剤についても、子宮頸がんの治療でよく使用される抗がん剤は卵巣にダメージを与えます。使用を繰り返すほどダメージは大きくなり卵子が全てなくなってしまうこともあります。
子宮頸がんの治療で妊娠の可能性を残せるのは、子宮の入り口を切除する円錐切除術と子宮全体ではなくがんのある子宮頸部のみを切除する広汎子宮頸部摘出術という手術を選択した場合だけです。
乳がんや他のがんにかかった方が治療前に凍結保存して、治療後に妊娠したという話を聞いたことがあるかもしれません。
でも、子宮頸がんはどの治療でも子宮に大きな影響があり、他の部位のがんのように治療後に妊活をするといことはできません。
円錐切除は本当に初期、ステージⅠの中でもⅠA1期までの治療法です。
広汎子宮頸部摘出術もⅠB1期までかつ、いくつかの条件に当てはまる場合しか選択できません。
しかもこの手術はできる病院が限られています。
つまり、ⅠA2期以上のステージだった場合(場合によってはⅠB1期以上の場合)、子宮頸がんを治療をするためには将来の妊娠・出産を諦めなければいけません。
そんなに初期で見つかっても、妊娠できなくなるの!?
と驚かれた方も多いかもしれません。
それが私がHPVワクチンの接種を進める大きな理由です。
※治療については、公益社団法人 日本産科婦人科学会、がん情報サービスのWEBページの情報を元に記載しています。
何のためにHPVワクチンを打つのか
子宮頸がんのほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染で生じることがわかっています。
その感染を50〜70%の確率で防ぐことができるのがHPVワクチンです。
子宮頸がんがワクチンで予防できる数少ないがんの1つです。
カナダやイギリスでは8割以上の接種率で、アメリカ、イタリアなどの国でも接種率は5割を超えています。
一方で日本では、2019年度にワクチンを3回全て受けた人の接種率は2%以下です。
その理由は2013年頃に大きく報道された副反応と思われる症状の影響です。
実際、これらの副反応はワクチンとの因果関係があるとは証明されておらず、諸外国の実績も考慮して、2022年4月から積極勧奨(自治体が積極的に対象者に接種を呼びかけること)が再開されました。
ちなみに、一生のうちに子宮頸がんになる人は、1万人あたり132人、
そのうち亡くなる人は1万人あたり34人と言われています。
HPVワクチンを1万人が受ければ、受けなければ子宮頸がんにかかっていた約70人が子宮頸がんにならず、約20人の命が助かると試算されています。
※厚生労働省のHPVワクチンのリーフレットを元に記載しています。
定期的な検診だけでは不十分?
子宮頸がんはHPVワクチンの他にも20歳を超えると定期的な子宮頸がん検診の受診が進められています。
検診は、前がん状態で発見するのが目的です。
子宮頸がんはHPVウイルスに感染してから、5〜10年の長い時間をかけて癌になっていきます。
そのため、2年に1回の定期検診を受けていれば、がんになる前の状態で発見できることが多く、治療も円錐切除のみで済ませられます。
じゃあ、定期的に検診を受けていればいいんじゃない?
わざわざワクチン打たなくても、早期発見できたら問題ないよね?
そう思われた方もいらっしゃると思います。
私自身、毎年子宮頸がん検診を受けていました。
それでもある年の検診で再検査となり、あれよあれよという間にⅠB1期の子宮頸がんが見つかりました。
もしかしたら、私の場合はレアケースなのかもしれません。
ただ知っておいて欲しいのは、円錐切除をしても妊娠自体は問題ありませんが、子宮口が開きやすくなり早産のリスクは上がります。
広汎子宮頸部摘出術も子宮が残っているので、妊娠は可能ですが、妊娠しづらくなるそうです。
この手術を受けた人で妊娠を望んでいて、自然妊娠できた人は約3割だと、主治医から聞きました。
また円錐切除と同様、普通の妊娠と比べて早産のリスクも高くなります。
子宮頸がんは超初期の発見であれば、将来の妊娠が可能な治療も可能です。
それでも、将来の妊娠・出産への影響はゼロではありません。
妊娠の可能性、将来の妊娠のリスクを考えたとき、HPVワクチンの接種はぜひ前向きに検討して欲しいです。
そもそも子宮頸がん検診の受診率は、約35%と決して高くありません。
若いうちにワクチンを打つことで、子宮頸がんを知るきっかけになり、その後の検診受診率の上昇につながればいいなとも思います。
子宮頸がん経験者がワクチン接種を進める理由
どうしてここまで、ワクチンの接種を進めるのか?
それは将来の妊娠の可能性を自らつぶしてほしくないという思いからです。
私自身、「妊娠できないこと」が女性に与える心理的な影響は思った以上に大きいことを実感しています。
私は広汎子宮頸部摘出術も可能なタイミングでの発見でしたが、子宮全摘を自分で選択しました。
子どもが既に1人いたこと。
体外受精をしてまで次の妊娠は望まないかなとがんになる前から夫と話していたこと。
経過観察ための通院頻度が増えてしまうこと。
など、色々考えた結果、次の妊娠は望まず子宮を摘出しました。
自分で決めたに関わらず、「2人目は?」「もう1人欲しいと思っているんでしょ?!」と周囲の人に言われると「欲しかったんだけど、もうできないんだよ…」というモヤモヤしてしまう気持ちになってしまいます。
(ちなみに、私が手術を受けたのはコロナ禍の育休中だったので、会社の人や友人で私が手術を受けたことを知っている人はほとんどいません)
もう産めないことはわかっている。
自分で選択したのだから、もう妊娠できないことはそんなに気にならないかなと思っていました。
でも、もう妊娠ができないことは思った以上に心にひっかることでした。
これは私の勝手な予想ではありますが、たぶん同じように考える女性は多いんじゃないでしょうか。
不妊治療中の方で、中々妊娠できなくて苦しんでいる人はたくさんいると思います。
でも不妊治療中の方って、今までの人生で何かの選択のために、今不妊治療をしているわけではありません。
でも、子宮頸がんが原因の場合、ワクチンを打っていれば子宮を失わずに済んだ可能性が高いんです。
過去の自分の行動や選択が不妊の原因になったとしたら、悔やんでも悔やみきれなくないですか?
防ぐ手段があったのにそれを選択せず、妊娠できなくなった。
そんな後悔はしてほしくない。
これが私が子宮を守るため、将来の妊娠のため、HPVワクチンの接種を進める理由です。
まとめ〜将来の妊娠・出産のために
HPVワクチンの定期接種になっているのは、小学6年生から高校1年生までの女の子です。
実際にこの年代の子がワクチンを接種するかどうかは、本人というよりは親の意向が強く反映されると思います。
本人も妊娠・出産を自分ごととして捉えることは中々難しいですよね。
だからこそ、親がしっかり理解して、子どもに将来の妊娠・出産のためだと、説明する必要があると思います。
そのためにはもっと子宮頸がんについての情報が社会に広まる必要があります。
まだまだ子宮頸がんについて知らない人が多いですし、子宮頸がんの治療で妊娠ができなくなるということをイメージできない人も多いの現状です。
これからも子宮頸がんの一経験者として、少しでも子宮頸がんの情報に触れる人が増えるよう情報発信を続けていきたいと思っています。